コロでコンゴへ
「え? コロでコンゴ?聞いたことなーい!!」
そう、私はいわゆるバックパックを背負っていない。
小さなタイヤのついた、空港などでステュワーデスさんが引っ張っている、あの黒いのである。
つまり、大人のパッカーなのだ。
ここだけの話、肩こりがひどいのよね。首もね。いててて。
ええ、おばさんです。
コロ付きスーツケースでで、悪路のコンゴに行く人なんて、ほかにいないようだ。
「コロでコンゴへ来た、初めての日本人=熊本フミさん として、コンゴの歴史に深く刻まれるであろう。
さて、これから入国するコンゴ。ガイドブックも持ってないし、宿の情報もない。
ビザも持ってない。
7時半に起きたが、やる気が起きず・・・。
しかし、ベッドの上でストレッチをすると、「今日も何があるかワクワクだ!」と思い直せた。
それが単なる錯覚であるとも知らず・・・。
ウガンダ出国はすんなり。宿から歩いて2分。
そこから少し坂をあがると、100mほどでコンゴに入境だ。
コロをリュックにして背負い(優秀なコロバックなのだ)、コンゴに入っていくと、
おばさんが私のほうによってきた。
「予防接種はしてあるの?イエローカードを見せて。」
はいはい、黄熱病ですね、してありますよ!
おばさんは私のイエローカードを持って、狭く暗い部屋に入った。
「こっちに来なさい」
カーテンで仕切られたおばさんの部屋で、おばさんはまじまじと私のイエローカードを見る。
「黄熱病以外はしてないの?」
してないですけど。
「コンゴに入るには、黄熱病以外にも、コレラと○○がいるのよ。」
は?そうですか・・・。
「どうしましょう。」
「・・・10ドルでいいわ。」
バクシーシかよ・・・。値切ってみよう。
「5ドルでどうでしょう。」
「だめよ。10ドル。」
仕方なく10ドル払うと、おばさんはご機嫌になり、「入国はこちらよ」と案内してくれた。
男の係官が「こちらに入りなさい」
「ええっと、ビザは・・・?」
「ここで取れると聞いたんですが。」
「ここでは取れない。町のイミグレーションオフィスに行って、取るんだ。」
「え?たった2日、トランジット(通過)するだけですよ」
「だめだ。私と一緒に町のオフィスに行って、ビザを取るんだ。
ほしかったらタクシー代を1ドル出しなさい。」
はぁ・・・。またお金か。
ま、1ドルくらいなら。
ゴリライモに似た係官は私のパスポートを含め10冊ほどもって、タクシーに乗った。
「町のオフィスに行ってから、ホテルに行くんだったら3ドルだよ、タクシー代。」
はぁ、まぁそんなものかな。
「君は結婚しているのかね。問題ない。君がもし私を受け入れてくれるなら、
僕は日本に行くよ。」
いや、来なくていいです。
オフィスに行くと、みんな結構待たされていた。ボスが外出しているので、
決済などが降りないようだ。
私はパスポートを預けたまま、1時間待ち。タクシーにも待ってもらっていたので、
帰ってもらった。
「5ドルくれ。」
あげないよ!
私は胸の上部が痛く、咳も出て、体がしんどかった。
それでも日本人が珍しいらしく「日本人か、結婚しているのか。」この質問ばかりだ。
かなり疲れて、体のだるさもあって、何ドルもとられて、くやしくて涙が出てきた。
もう3時間がたった。
これからこの国で、宿探し、バス探し・・・。先が思いやられる。
「フミ、問題ないわよ。泣かないで。」
やさしくしてくれるのは受付のジャイ子、いや、ディアだ。
「バナナは好き?一緒に買いにいこう」
コンゴのバナナは、パサパサだけど、甘かった。昨日の晩御飯も食べてなかったしな。
その後、昼前にイミグレディレクター(えらい人が帰ってきて)、部屋に通された。
コンコン。はいりますー。
えらそうな机に、茶色いスーツを来たボスゴリラがいた。ゴリライモよりは小柄だ。
「君の問題は、ビザを取ってないことだ。」
「はぁ。でも30ドルでトランジットビザがもらえるって聞きました。30ドルはもう払いました」
「あの30ドルは、国境から、ここまでくるための代金だ。君がここから先、
入国するには123ドル(1万3千円強)払って、ビザを取らなければならない!」
ひゃ、ひゃく23ドル?
こんな高いビザ代、聞いたことない・・・。
とても払えない。
どうしてもだめですか。だめですよね。悔しいけど。
「じゃ、ルワンダへ帰ります。」またルワンダ入国で60ドル取られるけど、コンゴよりはマシだ。
荷物をもって、ボスゴリラの部屋を出ようとした瞬間。
「まぁ、まちなさい」
え?
「すわりなさい。」
はぁ。
「写真は2枚持ってるか。」
ありますけど。もしかして、ビザくれるんですか?
「ありがとうございます!」
いい人やん!ボスゴリラ!
「町を案内してほしかったら、ここに電話しなさい。私の番号だ。君は電話を持っているかい?」
ないですけど。
「え?どうして電話を持ってないんだ。」
どうしてって言われても・・・。
「案内するのは何時頃がいい?」
「いつでもいいですけど。私は電話を持ってないんで、宿に連絡してください。」
宿の名前は、入国資料に書かないといけないため、
ディアに聞いたプロテスタント教会にしておいた。
係官が私の写真で通過ビザを作ってくれて、やっと4時間後、無罪放免となった。
「宿には私が一緒に行ってあげよう。両替も要るんだな?」
今度は竹中直人に似た、ネクタイの係官だ。
一緒にタクシーに乗り、国境近くにあるプロテスタント教会(昨日の教会とは違います)に行った。
竹中直人が教会の人に話してくれた。
「宿は、ないって。」
ええ?・・・・やっぱり、うまくはいかないもんだ。
教会のえらいさんは「宿だったら紹介してあげるよ。予算はいくらだい?20ドル、15ドル?」
「 5ドルでお願いします。」
おじさんはぶっ飛び、しばらく考えたあと、しょうがないな、と教会内の部屋を貸してくれることになった。
あるんやん。シャワーもトイレも水が出ないけど。おまけに夜の短い時間しか電気が来ない。
それでも、マットレスを2重にしてくれ、シーツを敷き、石鹸とトイレットペーパーをくれた。
ありがたい・・・。
ずっと付き合ってくれた竹中直人は、さらに、「バス乗り場やマーケットに行くか?」と言い、またタクシーを拾った。
幹線道路以外は舗装がない。
バスターミナルも土だ。ロータリーになっている一角に、私が明日乗るはずの
「ブルンジ国境=ウビラ」行きがあった。ミニバンだ。
「このバスは朝から客を待っている。20人集まらないと、
昼になっても夜になっても出発しないんだ。」
ひえー。
「夜、出発しないと?」
「翌朝だ。」
ひえー。
明日はお客さんが集まるかなぁ。
「明日は火曜日だから、マーケットが終わって、人は帰る。あつまるだろう。」
そう期待したいもんだ。
マーケット(市場)にも行ってみた。
人、人、人。パンツ、パンツ、パンツ。ごみ、ドブ、靴。バナナ、バナナ、ぬいぐるみ、土ぼこり、土ぼこり。。
こんなひどい、いや、すごいマーケットは初めてだ。
圧倒された。
50歳くらいのやせた女性が、50キロはあろうかというポリ入りのビールを頭から回したひもで背中に背負い、運んでいる。すごい力だ。
子供もみんな、働いている。
私は今夜の食料、バナナとパイナップル、アボカドを買って、宿に帰った。
「イヤー今日は竹中さん、あなたがいなかったら私は何もできませんでした、ありがとう。」
彼と少し話した。
コンゴは貧乏な国なので、彼はコンピュータの学校を出ているが、使うコンピューターがない。
イミグレオフィスでも、いまだにワープロをたたいていた。
彼の夢を聞いてみた。
「そうだなー。アフリカ以外の国に住みたい。アフリカは貧乏だ。ヨーロッパがいいかな。白人と結婚して。」
ふうん。私は豊かな(先人の努力で)日本に生まれて幸運なんだなー。
竹中直人は「明日のあさ、君のバスを見に行くよ」といって、帰っていった。
「ありがとう!」
「いや、これが俺の仕事だからね。」
んー、かっこいい。
帰り際に「タクシー代2ドルちょうだい!」といわなければ、ね。
さてと、今日は入国からホント疲れた。もうすぐ暗くなるな。
シャワーはないので、体拭きでフキフキして、メイク落としシートで日焼け止めを落として、アボカドとバナナとパイナップルの夕食を終えて、バターンと横になったとたん。
「コンコン、誰か男の人が来てますよ。」
げ!ヤナ予感・・・。ボスゴリラだ!
面倒くさい。でも、いかないと「入国取り消し」なんてことになるかも・・・。
会って断って来よう。
「あ、ボスゴリラさん!昼間はどうもー!」
「これから食事に行くかい?」
「いや、きょうはヅツウがして。。。しんどいんです。」
「少しだけでも。1時間ほど。」
しょ、しょうがないなー。じゃ、準備してきます・・・(う。めんどうくさい。)
準備といっても、ビーサンをスニーカーに替えただけだ。
ボスゴリラの車に乗る。「日○パジェロ」こんな貧しい国でこんな車に乗るなんて。
コンゴの首都キンシャサから、ここブカブに赴任してきて2ヶ月、42歳。高級ホテル暮らしである。
彼はほとんどしゃべらず、ひたすら舗装のない道を走る。湖のほうに下っていく。
「こんなとこにレストランあるんですか?」
「ドント ビー アフレイド(こわがるな)」
そういうと、ますます・・・びくびく。
ちょっと警戒。
「うちの父はポリスマンで、夜は外に出ちゃいけないといわれているんです。」
なんて言ってみたりして。
キキーッ。車は「オーキッド・クラブ」とかいう、ホテルレストランのようなところに止まった。
通されたテーブルは、昼間の市場の貧しさとは別世界。
ボスゴリラは肉とポテト、私は魚のマッシュルーム煮をいただいた。
食事中、気を使っていろいろ話し掛けてみた。
10月末に大統領選挙があること、まだ東部では内戦があること、どうしてイミグレの仕事を選んだのか、など。
「私は君にあえてうれしいんだ、ここブカブにもう一日いなさい。」
いやー、そんな気はさらさらないのでお金が・・・とか、日程が・・・とかエクスキューズを並べる。
彼の2本の携帯にはひっきりなしに電話がかかってくる。
しょっぱい味付けの食事を一生懸命食べ終え、レストランを出た。
真っ暗な、ガタガタ道をはしるボスゴリラの4WD。
「どうするかね、さきに私のホテルを見るかね、それとも君のホテル?」
は?何で私があなたのホテルを見るんでしょう?
「いやー、早く帰って、父に手紙をかかないと。毎日手紙を書かないと怒るんです。彼は厳しくて。」
入国がパーになってはいけないので、気を使いながら断るのも大変!
しっかし、コンゴって国は・・・こんな人をイミグレの責任者にするんだから、推して測るべし。
「私は入国管理の最高責任者だ。ビザ代は私が払おう。君はもう一日、この町にいなさい。宿代の5ドルも私が払う。」
いやです。シャワーのない宿にもう一泊なんて、お金もらっても、ちょっと。
「私の父は、政府の警察官で、とても厳しいんです。早く帰らないと。」
およそ10分後、なんとか、私のホテルの前に着いたようだ。よがったー!!
「ここにもう一日だけ、いなさい!」
おいおい、入国の時とえらい違いだよなー。
「あした。出て行きます。ありがとうございました!ナイストゥーミーチュー!グナイ!」
はぁー。コンゴの長くてつらい一日が、終わった。
車はちゃんと私のホテルに帰っているかも判らなかったが、
by kumaf3 | 2006-10-11 22:21 | アフリカ編